その日、花が咲いた。

彼女は希望に満ち溢れた乙女だった。

 

その日、花が咲いた。

彼女は美しさに満ち溢れた乙女だった。

 

その日、花が咲いた。

彼女は愛に満ち溢れた乙女だった。

花は誰よりも何よりも見事に咲き誇った。彼女は恋をしていた。彼女は恋を叶えた。

 

その日、花は咲いた。一点の曇りも無く鮮やかに。

けれど、次の日花は散った。彼女は死んだ。

理由など如何でもいい。ただ、花は誰よりも何よりも見事に咲き

 

そして、何も残さず散った。

 

の咲いた日〜Lacrymosa(ラクリモーサ)〜』

 

 


匂いがする。

草の匂い。花の匂い。石の匂い。鮮やかに。

 

ただ一つ。

目の前の血溜りの匂いだけが、薄れていく。

 

雨の日は、好き。

 

の降った日 〜Oratorio(オラトリオ)〜』

 

 


「それは音?言葉?」

「―――――・・」

「それは喜び?哀しみ?」

「―――――・・」

「それは痛み?癒し?」

「―――――・・」

「それは君のため?彼のため?」

 

「―――――・・・

 “   ”のため、よ。」

「あぁ、やっと答えてくれた。」

 

の止んだ日〜Recitativo(レチタティーヴォ)〜』

 

 


いつだったか分からないのにはっきり憶えている。

花が咲いて雨が降って歌の止んだ日。

 

の消えた日〜Aria(アリア)〜』

 

 








解説

咲:花って奇麗だけど、咲くだけじゃだめだよなという話。咲いて散っただけの花は儚くも哀しい。実のために花は咲くのだから。

雨:そのまま。

歌:誰かのための歌を歌っていた少女。問いに答えるためには、歌を止めなければならないわけで。
レチタティーヴォ=対話のための独唱歌曲。

君:総括。上の全てと関係あるのかもしれない、ないのかもしれない。矛盾を孕んだ一行目になんとなく納得してもらえると嬉しい。